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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」
[Interview No.010]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

10人目となるInterview No.010のPLOTTERは、レゲエシンガーでありシェフの小澤雄志さんです。

汗を流して働き、

その思いを歌にのせる。

料理と音楽は、自分自身。

 

東急東横線「祐天寺駅」から徒歩5分。閑静な住宅街の一角に、温かな明かりが灯る小さな店がある。ここは小澤雄志さんがオーナーシェフとして腕を振るうワインバル『ozawa』。毎晩さまざまな人々がこの店を訪れ、ワインと料理に舌鼓をうちながら、笑顔を見せている。

そして小澤さんは歌うのだ。レゲエシンガー・Ja-ge Georgeとして、幸せに暮らす労働者たちの歌を。働き、遊び、泣き、笑い、“今”を生きられる喜びを。

料理と音楽。それぞれを同じ道と捉えて歩むと決めた、小澤さんの胸の内に迫っていく。

――アットホームな雰囲気の素敵なお店ですね。『ozawa』ではどのようなお料理を提供されているのですか?

ウチの料理はイタリアンとフレンチをミックスしたテイストがベースです。あとはスペイン風、タイ風、母親の手料理風とか、いろいろですね。パンとワインに合う料理、という感じかな。バケットはこれまで働いてきた店でも、かれこれ15年くらいずっと自分が焼いていました。外はパリッ、中はふんわり柔らか、そして一般的なバケットより気泡が細かいんです。その方が食事に合いますし、ソースにも絡めやすいので。メニューにあるカステラも自家製なんですよ。

――自家製のカステラとは、珍しいですね。

実家が茨城で和菓子屋を営んでいるんです。「おざわ菓子店」といって、和菓子やケーキ、パンを製造・販売しているんですね。それでレシピと作り方を教わりました。創業は江戸時代末期だと聞いています。

――「家業を継ごう」とお考えになったことは?

両親から「継いでほしい」と言われたことはありませんが、心のどこかにその思いはあったんですよね。4人兄弟の長男ですし。せめて技術だけは継いでおこうと思い、カステラ作りを学んだんです。『ozawa』にはカステラ専用のオーブンがないから、焼き方で苦戦しましたよ。いまは両親のお墨付きももらい、きれいに焼けるようになりました。

――料理の世界に入られたのはいつ頃ですか?

大学を卒業してからですね。正直なところ、将来何をするかをしっかり考えて、大学に進学したわけではないんです。だけど「もしかしたら継ぐかもしれない」という思いがあったので、新卒で洋菓子店に就職しました。

ただその頃から音楽活動も同時に行なっていて、朝が早い洋菓子店で働き続けることが難しくなってしまったんです。出演するイベントが行われるのは、夜から明け方が中心。それで音楽メインの時間軸で仕事をしようと、洋菓子店を退職してカフェに入りました。アルバイトでしたが、「ケーキが焼ける」という点に惹かれて。

そうしたらそのカフェでは、料理もホールも兼任だった。やってみたら思いのほか楽しくて、のめり込んだんです。ジャンルはイタリアン。実は料理が好きだったんでしょうね。

――レゲエに出会ったのは大学生の頃だとか。

はい、大学1年生でした。大学進学と同時に東京に来たんですけど、僕には“東京っぽい遊び”をしないといけない謎の使命感があったんですね(笑)。

それで大学の先輩に教えてもらったレゲエバーに、毎週遊びに行くようになったんです。歌って、踊って、騒いで、というピースフルなレゲエの世界に魅力を感じたんですよね。しょっちゅう朝までいたら、イベントを主宰するDJグループに誘われて、セキュリティやMCをするようになりました。とはいえセキュリティって実際はあまりやることがなく、MCもDJがレコードを回している横で曲の紹介をしたり。そのうち先輩に「歌ってみたら?」と勧められ、「歌ってみようかな」と。そこからです。歌いはじめたのは。22、23歳の時。

――レゲエシンガー「Ja-ge George(ジャーゲ ジョージ)」が誕生した。

いつもジャージを上下で着ていました。ジャージのカタログまで持ち歩いていましたよ。しかも何冊も(笑)。

 

――筋金入りのジャージファンですね(笑)。音楽活動に本腰を入れようと思われた、きっかけがあるのですか?

意外とお客さんの反応が良かったんです。曲は最初からオリジナル。レゲエは自分がつくった曲を歌う敷居がそんなに高くないんですね。それで「イケる」って、思ってしまったんですよ。でもその頃は恥ずかしい歌詞ばかりで……(笑)。お金がないだけで大した不満もないし、社会に対して訴えたいこともありませんでしたから。

だけど20代半ばでスランプに陥るんです。音楽で生きていくと決めて、曲をつくるために休みを増やしたんですけど、だんだん歌詞が書けなくなってしまって。そのような状況が1年くらい続き、「ずっと歌詞が書けないんじゃないか」って、ノイローゼみたいになったんですね。

バイト先でも後から入ってきたコたちがどんどん仕事を覚えていきますし、自分は料理も勉強中の身。スタッフ同士の仲はいいものの、そんな状態だからみんなとうまく話ができないんですよ。その頃、バンドのメンバーとルームシェアをしていたんですけど、家に帰ったら帰ったでメンバーは即興でラップ遊びとかをしていて、もうそれもプレッシャーで。いろんなことが怖くなっていたんです。

相談できる人もいなくて、最後の手段だと思い実家に電話したんですね。そうしたら母親が出て、「俺が30歳になった時、もし音楽も料理も中途半端な人間だったとしたら、『おざわ菓子店』で一緒に働かせてもらえますか?」って聞いたんです。

――お母様は何と?

「はじめて自分からやりたいと言い出したことなんだから、たった2〜3年でダメだとか言わないでほしい。一緒に働けるのは嬉しいし、帰ってくるなら受け入れる。だけどもうちょっとがんばってみて」と言ってくれて。この言葉にすごい救われたんですよ。絶対的な味方がいるんだということに。

とはいえ歌詞が書けるわけでもないので、頭が働かない分、身体を酷使しようと思いました。休みにしていた日全部に、シフトを入れてもらったんですね。働いている間は「音楽のことは考えない」と自分のルールを定めて、とにかく「もっと仕事ができるようになろう」と。

そうやって働いているうちに、バイト先のスタッフが僕が出演するイベントに来てくれるようになったんです。イベントではみんな楽しんでくれて、自分自身もそれがすごい嬉しくて。「こういう歌をつくりたいな」って思ったんですよ。「いい汗かいて、いいビール飲もう」みたいな。「幸せな労働者の歌」を。

――「Ja-ge George」として歌う小澤さんの曲は、私たちの周りにある、当たり前の幸せに気付かせてくれる気がします。

そうでありたいですね。その頃から、また少しずつ歌詞も書けるようになっていました。

きっとその時みんなが遊びに来てくれたのは、僕がみんなと一緒に汗をかいて働き、それをみんなも知っているからなんです。今でも『ozawa』のお客さんがイベントに来てくれるんですね。それはおそらく、僕がここで美味しい料理を作ろうとがんばっているのを間近で見ているから、足を運んでくれているんじゃないかなと思うんですよ。だから僕はこういう空間で働いていないと、音楽が作れないんです。

――小澤さんの中で、料理と音楽はそれぞれどのような存在ですか?

料理は生活と日常、音楽はそれらを潤してくれるもの。僕は両方ないとダメなんです。一方の比重が大きいとかもなく、どちらも100%。

「自分の店を出そう」と決めた時、開業資金を貯めるために音楽と距離を置こうとしたんですね。スランプを脱したはいいものの、自分には音楽だけで食べていける曲が作れないんだなと思ったりもしました。そこで気分転換というか腕試し的な気持ちも相俟って、「一人旅をしてみよう」と2010年にスペインへ行ったんです。

友人のミュージシャンのつながりがあったので、スペインで何回かライブをさせてもらったんですけど、向こうの人たちは仕事の後に音楽をやることが、ライフスタイルの一環になっているんですよ。日本だと極端な話、「いつまでやってるの」とか「いつ売れるの」とか、そんな雰囲気があるじゃないですか。

音楽をやりながら、音楽とは別の仕事に就いている人たちと生活し、「音楽を辞めなきゃと考えること自体、小さいな」と思い、日本に帰ってきたんです。

現在は音楽活動でいうと、「RUB A DUB MARKET」のメンバーとしてこれまでミニアルバム3枚、フルアルバム2枚発表し、ソロとしては2016年にフルアルバム『The Ja-ge George』をリリース。ライブは月に2回くらいですね。料理の方は、カフェを13年勤めた後、薬膳カレーの店やスペインバルで経験を積み、2014年に『ozawa』をオープン。おかげさまでたくさんのお客さんにお越しいただいています。

――すべてが最高のバランスなのですね。

はい、いまはすごくちょうどいい。未来のことはよく分かりませんが、ずっとこのままでいられたら嬉しいですね。まぁ、年に1回くらい旅行ができるとか、少しずつよくなっていけたら。

 

――最後に、小澤さんにとって「PLOTTER」とは、 どんな人間像だとお考えでしょう?

「PLOTTER」のブランドコンセプトが「創造力で未来を切り拓く人」であるなら、僕は誰もが「PLOTTER」だと思いますよ。みんな、あえて意識していないだけで。

 

【小澤 雄志 ・ Owner Chef/Reggae Singer】

祐天寺のバル OZAWA のオーナーシェフであり、並行してJa-ge George(ジャーゲ・ジョージ)というアーティストネームでレゲエシンガー(Deejay)としても活動中。

料理、音楽ともにジャンルレスに表現する労働家。

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