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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」プレ創刊号
[Interview No.002]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

今号は2019年7月の本誌創刊に先駆け、プレ創刊号としての配信となります。
2人目となるInterview No.002のPLOTTERはNATURALLY PAINT 主宰「福地智和」さんです。

『“自分らしさ”を最大限に表現できるペインターという仕事だから続けていきたい』

ショップ看板やウィンドウへのサインペイント、ロゴやイラストのデザインまで、さまざまなデザイン、製作を行うNATURALLY PAINT主宰の福地智和さんは、早々にバイクの免許を取得したが、若いが故に当然、お金はない。そのため、古いバイクを購入し、バラして直して乗っていたという。雑誌という限られた情報源を元に、福地さんも自身や友人のバイク、ヘルメットに見よう見まねでペイントし出した。それからおよそ15年が経過しているが、その“見よう見まね”の徹底的な追及は、福地さんにとっての唯一かつ最大の武器になっている。つまり、15年前と全く変わらない姿勢でペイントと真摯に向き合っているのだ。

――茨城を離れたのはいつ頃なのでしょう?

高校卒業と同時ですね。横浜で車やバイク関連のイベントがたびたび開催されていることを知っていて、そういった意味もあり、横浜の方に移りました。当時、大きなイベントに行った時、フリーハンドで描くサインペイントのやり方を初めて生で見て、そこがもうひとつの原点ともいえる体験です。それから数十件のペイントショップに手紙でコンタクトを取って、受け入れてくれたところに数カ月の間だけ働いて、必要な道具や材料、方法だけをある程度覚えて、あとはずっと独学でやっています。

――ということは10年以上、ほとんどおひとりで活動していたということですか?

その頃、アルバイトと両立していたのですが、BARでしばらく働いていて、好きなカルチャーが共通している人たちとたくさん知り合えることができたんです。そこで仲良くなった方とは今でも深い交流があって、それが仕事に繋がったりすることも少なくありません。外に出ることによって少しずつ口コミで輪が広がっていきました。

――具体的にどのあたりの年代のカルチャーがお好きなのでしょう?

1930~60年代のアメリカのカルチャーがもつポップさが特に好きで、そのあたりのいろいろな資料を見て、広告に使われているロゴやフォント、デザインを探して、まず真似て描いて、それを吸収、消化していくうちに活かすことができるようになっていきました。むしろ、不器用な分、得意なことだけをやり続けていたというだけですね。自分だけができることは何なのかを求めて、試行錯誤を繰り返していたら今に至りました。

――お客さまからはいつもどういったオーダーがあるのでしょう。例えば、ガラス面に文字を施したいから、どういうのが良いかというアイデアから求められるのでしょうか?

個人のお客さまの場合はそういうケースもありますが、企業の場合は具体的なプラン、デザインがすでにあるので、ゼロから絵を描くことはあまりないですね。むしろ、完成されたグラフィックを手書きで完璧に仕上げることが求められます。まっすぐな線、全くブレ、歪みがない書体。手書きでこんなに再現できるんだ!という想像とは違う、クオリティの面で驚きを覚えてもらえるものを提示しています。僕はアーティストではないので、お客さまのイメージや要望に応えることが制作目的の9割を占めてして、残りの1割で自分のテイスト、要するにそのクオリティの追及があると考えているのです。

――ちなみにどういったプロセスで制作が進んでいくのでしょうか?

まずは下書きですね。というか、下書きが終わったら作業は終わったも同然です。ガラス面にせよ、凹凸している壁にせよ、きれいに描くための段取りを自分のなかで想像しながら進める必要があります。下書きはそれを考えるという意味でも最も大切な工程なのです。

――特に難しいのはどういったものですか?

ギルディングといって、書体に沿って金箔を貼る技術があるのですが、慎重にやらないと仕上がりが悪くなってしまうし、コストもかなりかかります。 数年前は真鍮製で安価なゴールドリーフが主流だったのですが、ここ最近は高クオリティなギルディングを使うケースが圧倒的に増えてきました。また、時代の流れもあると思うのですが、独立して今のNATURALLY PAINTという屋号を使い出してから、自分の仕事内容が大きく広がり始めました。当初はやはり車、バイクのペイントがメインだったのですが、ギルディングをはじめ、看板やショップのロゴをデザインさせていただくことも、ここ最近は多くなってきています。

――“PLOTTER”のワークショップ(昨年、“PLOTTER”発売記念として、銀座・伊東屋にてレザーバインダーに福地さんが購入者のイニシャルを手書きで加えるワークショップが開催された)に関しても、そのひとつといえますよね。

そうですね。レザーでしかもステーショナリーと考えると、ペンキをしっかりと定着させなくてはならないから、いつも外壁で使っているものでは乾燥時間に問題点があった。なので、まず違うペンキを探して、テストを繰り返して、何とか実現までもっていくことができました。

――多岐に渡っても独学というか、自分で方法を編み出すことを貫いているわけですね。

何事もまず試して、失敗して、というのを繰り返しながら会得しています。そこは全く変わりません。せっかく依頼をしていただいたからには、できないという諦めの答えを絶対に出したくないのです。

――仕事を始める前、幼少期においてもそういった性格だったのでしょうか?

元々、“そのもの”を買うのではなく、“それ”をつくるための道具を買っていました。道具と工夫、閃きさえあれば自分で何でもできてしまうはず、そういった考えは幼い頃から無意識的にあったかもしれません。

――最後に、福地さんにとって「PLOTTER」とはどんな人間像だとお考えでしょう?

気持ちがブレていない人だと思います。僕にはペイント以外に得意なことがありません。だから、別のことをやるより、ペインターとして続けていきたい。これから先、サインペイントの良さを伝えていきたい。

[福地智和 ・ SIGN PAINTER]

1984年 茨城県生まれ
NATURALLY PAINT 主宰
2010年に「NATURALLY」を立ち上げ、SignPainterとして店舗の看板や、ガラス面、壁面などにフリーハンドのペイントを行なう。 手描きというアナログな作業のなかに職人の技術や経験が凝縮され魅力的な作品として評価されている。 金箔などを使用したサインペイント、GILDINGを得意とし、また現地への出張作業でもクオリティーの高いグラスサインも精力的に行なっている。