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イタリアの革は
なぜこんなにも魅力的なのか

PLOTTERが使う素材にはそれぞれにストーリーがある。レザーバインダーに使われた革もそのひとつ。「プエブロ」や「リスシオ」の故郷は、イタリアはトスカーナ地方にある名門タンナー「バダラッシ・カルロ社」だ。僭越ながら私たちはここが創り出す革の一ファンでもある。2017年のブランドローンチと同時に展開した6穴リングレザーバインダー「プエブロ」も十分すぎるほど魅力的な革だが、2019年9月に新たに仲間入りした「リスシオ」もそれに勝るとも劣らない逸品。

2000年以上も前から着物に代表される和装文化を支えてきた“日本の絹”と同じように、ヨーロッパには“革を鞣す(なめす)”という文化が栄え、今も確実に、根強く、生き続けている。

「リスシオ」の正式名称は「ミネルバ・リスシオ(Minerva Liscio)」。先述のバダラッシ・カルロ社の代表作で、その特徴と言えば、「美しいスムース」「手に吸い付くような手触り」「劇的なエイジング」「透明感のある表情」などがあげられる。アルプス地方に育った牛の、もっとも上質な部位のひとつであるショルダー(肩部分)を使用した、正真正銘ナチュラルタンニン鞣しのそれは、一切の化粧仕上げを排し、皮革そのものが持つ“らしさ”をそのまま活かした、革らしい革だ。

「liscio(リスシオ)」とは、そもそもイタリア語で“滑らか”とか“スムース”という意味。実際の革の風合いも文字通り抜群にスムース。一度浸透するとほぼ永久に潤いと艶を保つ、タンナー独自の牛脂オイルをたっぷりと含ませたこの革はいつまでも手にしていたいと心から思わせてくれる。

「リスシオ」はその美しい銀面(表面)と同時に、実は床面(裏面)にも特徴がある。全体の厚みを2㎜均一に仕上げるべく、床面に剃刃を入れてシェービングを施している。

上の写真がそのシェービングマシン。専門の技師たちが、一枚の革をあらゆる方向から丁寧にこのマシンに差し込んでいく。中から出てきた革の床面にはもちろん刃の当たった跡が。これは、床面を滑らかに均一に仕上げるために、丹念に革と対話しながら幾度もシェービングを施した証。

レザーバインダーはご存知の通り、素材の風合いや張り感など、一枚一枚の革が持つ個性を最大限活かしているため、「リスシオ」に至っても革の仕上がりがそのまま味わえる。つまり、肌触り良く、均一に、滑らかに加工された床面のシェービング跡がそのまま露わになっているということになる。

伝統を重んじ、細部まで行き届いた繊細な革作りを行っているからこそ、素材をありのまま使える贅沢感。革作りの本場トスカーナの職人技はもちろんのこと、剃刃がつくり出した毛並みの跡を見て、手に触れ、香りを嗅ぎ、革鳴きを愉しみ、五感を研ぎ澄ましながら一枚の皮革が生まれるまでの長いストーリーをも堪能できる醍醐味が、イタリアンレザーには確かに存在するのだ。

最後に、バダラッシ・カルロ社も属する、伝統のイタリアタンナーズ協会のとても素敵なものづくりムービーを紹介して終わろう。