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現代の生き方のヒント
「PLOTTER MAGAZINE」
[Interview No.004]

さまざまな世界において活躍する「PLOTTER」の行動力は創造性に溢れています。

「PLOTTER MAGAZINE」は、彼らの考え方や価値観を通して、過去から今までの歩みをたどり将来をポジティブな方向に導く変革者たちを応援します。

私たちが創るツールと同じように、ここに紹介する「PLOTTER」の物語が、みなさんにとってのクリエイティビティのヒントになれば幸いです。

4人目となるInterview No.004のPLOTTERは、インフォグラフィック・エディターの櫻田潤さんです。

 

『自然体で居続けられれば、行ったり来たりを繰り返しても、やがてブレイクスルーは訪れる。』

情報を単に並べ可視化するのではなく、図や色を組み合わせ、より端的にかつカジュアルに伝えるインフォグラフィックスという手法があることは、多くの人がご存知だろう。インフォグラフィックス“伝える” ことこそ第一義であるが故に、おそらく最も重要とされるのは分かりやすさだと考えられる。 そのせいか、どこか静的で無機的なものが一般的であり、また、少々極端な言い方になってしまうかもしれないが、文字や画像といった素材を美しくまとめることが基本的に良しとされるグラフィックデザインの考え方とは似て非なるものだ(った?)ともいえる。

経済ニュースを業界人や専門家のコメントとあわせて読むことができる、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」の櫻田潤さんは、インフォグラフィック・エディターとして入社した。櫻田さんが作るインフォグラフィックスの面白さは、先に触れた第一義はしっかりと守られている一方で、そこに登場する人物の感情が伝わってくるような生き生きとした描写、従来にはなかったダイナミズム、動きがあることだ。 どうして他とは異なる方向性を実現することが出来たのか。 その理由は、櫻田さんの成長の過程を振り返ることで見えてくる。

 

――まずは幼い頃に熱中していたことについて教えてください。

特に熱中していたのは絵を描くことと虫を捕ることでしたね。小学校が電車で通わなければならないところだったので、当時は近所で一緒に遊ぶような友人が少なくて。ひとりで遊べる方法として考えたのでしょうね。 そのこともあってか、他の人に、影響されたり、憧れを抱いたりもしない性格でした。中学、高校に進み、没頭する対象が絵を描くことから文学作品を読むことにシフトしていきました。 例えば、太宰治や芥川龍之介といった日本の純文学といわれるもの。 特に芥川には直接的な影響を受けていると思っています。彼は長編を書くことができなかったんです。 試みても未完に終わっていた。 何故かと言うと、突き詰めていく段階で要素を削ぎ落とす傾向にあったからだと言われていて、結果、無駄がない内容になった。それは今、自分が何かを作る思想として受け継いでいると思っています。

 

――勉強についてはいかがでしょう? 遊びや趣味と同じように、ご自身で何か方法を編み出したりしていたのでしょうか。

一時期、塾に通っていたのですが、暗記型の塾教育に対して疑問を抱いていたことを覚えています。 人からこうすべき、これを覚えるべきと諭されるよりも、自分でメソッドを見つけたいタイプでした。学校での授業は好きで、その内容をノートに細かく残していました。そこから、さらに理解を深めるため、まとめ直していました。例えばQ&A 形式にするなど、自分なりの工夫も加えながら。 メディアの仕事に繋がる原体験としてあるのは、試験前になると皆が僕のノートをコピーして使っていたこと。 一つのコンテンツが、人とのコミュニケーション手段として広がっていくことを実感しました。

 

――情報を端的にまとめるインフォグラフィックスの基礎的な思考がそこで備わったわけですね。 ただ、その時点ではまだ要素は手書きのテキストですよね。 どこからグラフィックへと切り替わっていくのでしょう?

大きなきっかけとなったのは、アメリカ同時多発テロです。 テキストでは表すことができない衝撃を覚え、絵を描きました。 以後、戦争やアメリカといったテーマを意識したカオティックな連作を描き始めました。文字では表せないことがあるカオスを表現するためには、グラフィックが最適と考えたからです。 連作における物語性は、一連の流れをもって何かを伝えるインフォグラフィックスにも通じるものかもしれません。当初はアナログな手法で描いていたのですが、やがてデジタルへと移り、1 年くらいのスパンで絵のテーマや作風が変わっていき、その過程で要素がだんだんと削ぎ落され、現在のシンプルなものになりました。

 

――なるほど。 情報を編纂、編集することと、絵で感情を表現することが別の軸で進化していき、次第に結びついたと。

そうですね。 他の作品を作られている方との大きな違いだと思っているのは、入り口が全く異なるというところと、ただ分かりやすく物事を伝えるということだけではなく、社会との何かしらの接点を作るために情報をまとめ、絵を描いていたという目的意識だと考えています。

 

――それがライフワークのようなものから仕事になっていくのはいつからなのでしょう?

仕事になるのは何年も経過した後ですね。 仕事になったら良いとはもちろん思っていたものの、ならないだろうなとも思っていました。趣味として継続できれば、それで良いと。 ただ、そう割り切りながらも、メディアで自己発信として使ってみたいという気持ちが湧き出していました。 そんなときに経済を中心に幅広い分野を個人の明確な切り口で伝える、日本では珍しいタイプの「NewsPicks」が立ち上がり、読者の方々に新たなコンテンツの形として受け入れてもらえるようになりました。僕は、インフォグラフィックスの本質は、情報を伝えることだと考えています。 情報を物語(ストーリー)化することで、今まで届かなかった人たちに伝えたいという想いで、仕事をしていました。そして2年ほどインフォグラフィックスの仕事に携わった後、違う分野にも挑戦してみたいと思うようになり、新規事業の立ち上げに混ざって、今はそのプロジェクトに関わっています。

 

――これまでとは別の畑をあえて選んだということですね。

携わった経験がないことにチャレンジすると、少なからずストレスや挫折が生じると思いますが。もちろん、上手くいかないなと感じることは日々ありますし、経験がないと通用しない部分も多く出てくるので、挫折のような感情が生まれることもあります。 しかし、そういったときこそ自分にも周りにも正直になるべきだと僕は考えていて、自分ができないことを明らかにし、本来的にやりたかったこと、伝えたかったことは何だったのかを振り返るようにしています。「水到りて渠成る」という言葉があるのですが、これを簡単に言い換えると、水が流れていけば自然に溝が生まれる、という意味になる。 つまり、自然に流れていく水のように、自分がナチュラルだと感じる状態で、今やりたいと思った方に向かって行動を起こし続ければ、やがてブレイクスルーが訪れるはずなんです。

 

――先ほどの櫻田さん流のインフォグラフィックスが生まれた経緯も、まさにそれに当てはまりそうです。最後に、櫻田さんにとって「PLOTTER」とは、どんな人間像だとお考えでしょう?

越境人材。 領域を限定せず、いろいろな分野にまたがり、いろいろな人とコミュニケーションをとれ、多様性を持って思考、行動できる人ですね。

 

【櫻田潤 ・ INFO GRAPHICS EDITOR】

東京生まれ。
学習院大学経済学部卒。 2010年、個人サイト『ビジュアルシンキング』を立ち上げ、インフォグラフィックスに関する情報発信と制作を開始。 2014年に「NewsPicks」に参画。 以後、ビジュアルを活かした記事を多数執筆・デザイン。 2018年より『ビジュアルシンキング・ラボ』主宰。 主な著書に『たのしい インフォグラフィック入門』『図で考える。シンプルになる。』。

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